会誌「かばん」2025年6月号特集「短歌探検隊」では、折田日々希さんと千葉聡さんの対談の前半部分を掲載しました。
「短歌探検隊」は、「短歌との出会い」にまつわるアンケートをとり、そこから浮かび上がってきた様々な短歌のあり方に、探検をするようにスポットを当てていく特集です。
対談の前半では高校の師弟の関係でもある千葉さんと折田さんに、二人の出会いや学校における短歌などについてお話しいただきました。
後半はこちらの「かばんブログ」にて数回にわたってお送りします。
後半では、学校現場の外にも視野を広げ、歌会やSNS、同人誌、アンソロジーなど、様々な形で短歌と関わることについて深く掘り下げます。
よろしくお願いたします。
(文責・高村七子)
青春詠とは
高村
青春詠について、もう少しお伺いします。
折田
中学校高校のときって、夏休みや冬休みに俳句や短歌を書くようなコンクールあるじゃないですか。 それらが短歌に興味を持つきっかけになることって、あるんですかね。
千葉
うん。それで書き始めた子もいるけれど、でもあんまり続かないんだ。
折田
学校教育っていう枠組みで収まっちゃうと、短歌の世界って広がらないのかなって思ったりします。
千葉
まあ、「やれ」と言われてやることって、あんまり意味がないからね。
自分は二十四歳で朝日歌壇に掲載されたんだけど、載って嬉しかったから、短歌のほうに進むきっかけになったかもしれない。ただ、生徒にとっては「一斉に書きなさい」の宿題では興味が育たないよね、きっと。
折田
朝日歌壇だったら、全国紙に載るじゃないですか。夏休み冬休みの宿題は、どこに掲載されるのかよくわかってなくて……全国紙に載るってなると、やっぱテンション上がるじゃないですか。そういうわかりやすい入口に持っていくようなことをすれば、短歌人口って増えるんでしょうか。
千葉
三年の国語表現のクラスを持ったときには、短歌を書こうと言って、みんなで朝日歌壇に応募して、それで選ばれた人もいますね。日々希くんは角川短歌賞を目指そうっていう話をする前に、朝日歌壇にも応募してるよね。で、一発で載った。われわれ、ふたりとも佐佐木幸綱選デビューなんですよ。いつか幸綱先生に会いに行って、「ふたりとも選んでもらいました」ってお礼を言いたいね(笑)。
高村
そうですよね。新聞に載るのってすごいですもんね。調べようと思ったら、割と誰でもアクセスできますよね、結構古い新聞でも。今だったらデジタルアーカイブとかもありますし。
千葉
日々希くんが掲載されたのは「関先輩の十月はゆく」だったね。
折田
「惑星を廻すが如く指揮をする関先輩の十月は行く」ですね。吹奏楽部の。
千葉
この歌もいいですよね。ほら、『十月は行く』だけで、他には何も表現しようと思っていないところがいい。ただ学生指揮者の関くんの姿だけがくっきりと浮かんでくる。うん。いいと思う。ホルストの『惑星』をやっていたかもしれないし。人の姿が描けているのと、結論っぽいことをかっこよく決めないところがいいと思うな。
折田
なんかそれは、最初の頃に言ってくれたような気がします。結論をあえてぼかす、みたいな。
千葉
言ったかな(笑)。この前たまたま友達と集まったときに話したんだけど、寺井龍哉くんは日経歌壇で穂村弘さんに十六、十七歳の時に選んでもらったんですよね。小島なおさんも高野公彦さんの選歌欄に送って、十代デビューだったでしょ。角川短歌賞の受賞時も十七だったし。みんな十代デビューで、十代の作品が残ってる。アンソロジーにまとめるときに、十七歳の時の短歌を載せられることを思うと、やっぱり十代の作品がある人にはかなわないなと思いますね。
高村
私は二十代から短歌を始めたので、そういうのを聞くとちょっとうらやましいなって思います。
千葉
そのときの作品は残ってるでしょ?
高村
私の話をして申し訳ないのですが、短歌作品は私が記憶しているものしか残っていませんね。
ただ十四歳の時に、やなせたかしさんが編集長の『詩とメルヘン』という雑誌に詩やメルヘンが計三回載りました。その『詩とメルヘン』が実家に置いてあるんですけど、捨てられてなければまだ残ってますね。
千葉
残ってる。いいじゃないですか。
かばんにも、今、若い人がどんどん来てますよね。十代の人っているんだろうか?
折田
多分いると思います。
千葉
そっか。穂村さんが言ったみたいな、青春歌集からデビューする人がこれから増えるといいですね。なんか比較材料で出して申し訳ないけど、小高賢さんの『耳の伝説』は第一歌集だけど、もう大人のお父さんの歌なんだよね。小高さんって、志の高い、すばらしい編集者で、実績もある素晴らしい歌人だと思うけれど、青春歌集がないのがちょっと悲しい。
高村
そう思うと、啄木はすごいなって思います。夭折したというのもありますけど、『空に吸はれし十五の心』とか。十五かよ、みたいな感じで。
千葉
かっこいいですよね、十五の心を読めるって。立花開さんとか小島なおさんは、まさに十代のときの作品が第一歌集に載ってるから、時々それを見返しています。……ほら、日々希くんも本まとめたくなってきたんじゃない(笑)?
折田
暗示が(笑)。
千葉
かばんって、若い作者の集合体だった。自分が入ったときはまだ穂村さんは『短歌という爆弾』も出してなかったし、東さんも第一歌集が出てすぐって感じで、まだみんないろんな雑誌に書いてはいなかった。でも、ある時穂村さんが小学館から本出すんだよって聞いて、大騒ぎになって。「え?小学館って歌集の自費出版とかやってたっけ?」って俺は思ったくらい。『短歌という爆弾』が出たら、あれよあれよという間に大スターだよね。東さんは、気がついたら小説も書き始めて、あんなに売れてしまってるし。まだ無名だった人たちがどんどん変わっていく姿を見て、かばんは、若い刺激を得られる場所だったと思いますね。
その2に続く!