「かばん」6月号特集、「短歌探検隊」の対談の続きです。
今回はちばさとさんの短歌との出会いから、「書くハードル」についてうかがいました。
最初は簡単に作って徐々にステップアップしていくのも、ハードルを楽に越えるためのポイントかもしれませんね。
(文責・高村七子)
短歌の出会いとハードル
高村
俵さんで思い出したんですけど、今回ちばさとさんも短歌探検隊のアンケートに回答くださったじゃないですか。そこでちばさとさんと短歌との一番最初の出会いが、『サラダ記念日』だったって見たんですけど、そのあたりのこともお聞かせいただけますか?
千葉
うん。自分が大学二年生の時に仲良くしていた後輩が、二十歳の誕生日に本をくれたんです。「サラダ記念日って、今すごく読まれてて、とっても良かったし、先輩に合うと思って持ってきました」って。で、帰りの中央線に乗って読み始めて、最後まで一気に読んで……。読み終わったときに、映画を一本見終わったような感じを味わって、すごく惹かれましたね。そこで書き始めればよかったんだけど、そこは衝撃を受けただけで終わって。
折田
出会いではあったけど、作歌の動機にはならなかった?
千葉
うん。真似事でちょっと歌を書いてみたけれど、それをどこかに応募するとかまではいかなかった。ただ好きだという思いはずっとあった。それからしばらくして、同級生が「僕の友達がこんなの書いてるんだ」って、枡野浩一さんの手紙を見せてくれたんだ。「自分は短歌を書いていて、短歌研究とか角川で最終選考まで行っていて、他にもいろいろ書いています」と。「もし面白くていいと思ったら、友達に見せて紹介してください」って、短歌雑誌のコピーが一緒にあって、それを俺にも見せてくれた。その中に、「「もう二十歳……自覚しなきゃ」と言ったのに「自殺しなきゃ」と伝わる電話」って歌があって、めっちゃ面白いなと思った。でも、そこでもまだ書くには至らなかった。俵さんもさ、軽く書いてるけど、すごく作り込んでいる。枡野さんも一瞬でクスッて笑えたり衝撃をもたらしたり、上手に書いてある。自分にはそういうことまではできないだろうなと思ったのと、読者として楽しんだけれど、書くまでには至らなかった。
折田
確かに読むハードルと書くハードルって別ですよね。ちばさとの今の活動って、読むハードルを下げてるなって思うんですけど、そこから書くハードルを下げるってなるとまた別のことが必要なのかなと。それこそクーベルチップ歌会は書くハードルもだいぶ下がるかなと思うんですけども、そこに対して何か意識されてることってあるんですか。
千葉
短歌って、書き直しがきくでしょう。場合にもよるけど、歌会に出したぐらいだと未発表扱いになったりして、人の意見を聞いて後で書き直したりできる。書き始める、送ってみるってハードルは低い方がいいよね。それで後で書き直して本にするときに最終的な形になればいいのかなって。
ただ自分が読者として読むときには、上手な良いものが読みたいから、本にする段階では、自分でかなり意識を高く持ってまとめるべきかなとは思いますけどね。
折田
短歌をまだやってない人だと、「完璧な一首を作らないといけない」って思っちゃう人がいるのかなと思ってて……そうじゃないよってことですかね。
千葉
うん。途中の段階でいいと思う。後からどんどん良くすれば。
折田
でも、世に出てる短歌って、完璧な短歌しかないじゃないですか。紙ベースだと特に。だから歌会とか結社とか……かばんとか。そういうコミュニティーがあることによって、完璧じゃない中間の状態の歌がいっぱいあるっていうことに、背中を押されるのはありますよね。
僕は、永田和宏さんと知花くららさんの『あなたと短歌』が初めて読んだ入門書なんですけど、永田さんが「百首詠んで一首いい歌があればいい」「駄作もどんどん作るべきだ」みたいなことを言ってたんです。絵を書くときもそうだと思うんですけれども、小さい子供たちって完璧な絵とか描こうとしないじゃないですか。ラフに描く楽しさから、だんだん上手くなっていく。でも短歌となると、一首の短さゆえに、最初から完璧な状態を目指そうとしちゃう人もいるのかな。そこに対するアプローチとして、結社とか同人誌とかがあるよっていうのを、短歌を知らない人に紹介していけたらと思いますね。
千葉
うん。そのステップアップしていく方法がたくさんの人に伝わればいいよね、結社に入るとか、応募してみるとか。
俺は今歌人協会の理事で、ネット係なんですが、昨年十二月に『短歌の文化祭大賞』をやったんですよ。Twitterを見ていると、短歌研究新人賞とか角川賞とかで「最終までいきました」とか「今年は二首でした」とか、みんなツイートするでしょう。そういうふうに、新人賞が一番盛り上がる。反響がある。 だからそれを一日で決まる形で、投稿のハードルもかなり下げれば、たくさん応募があるんじゃないかなと思ったんですね。短歌に興味を持つ人も増えるんじゃないかと思ってやったら、わずか一日、というかわずか数時間で四百以上の応募があったんです。それを大松達知さんと富田睦子さんと、短歌研究の編集長の國兼秀二さんの三人で選んでもらって、最終候補作の九編ですって上げたら、それがすごくたくさんのインプレッション数を稼ぎました。最終選考会をスペースでやったら、四百人近くの人がリアルで聞いてくれたんです。この新人賞は「短歌研究」に受賞作が載ることが決まっていて。普段ネットで活動してるけどやっぱり紙媒体に載りたいって人は少なくないから、ハードルを下げて一日で決まり、紙媒体で発表できる場を提供できたのは、良かったと思いました。
折田
短歌って、本で読むところから『短歌の文化祭大賞』みたいにライブ感のある取り組みまで、場の厚さがありますよね。僕はYouTubeの場での取り組みを考えて、去年はかばん40周年動画も作りましたけど……短歌はいろんなものと親和性が高いなと思っています。昔からよくあるものだと、写真×短歌とか、イラスト×短歌などがあって、それが今だとTwitterのスペース×短歌っていうのもあって、ライブ感がある。異業種とタッグ組みやすいのも、短歌の広がりのパターンの一つかなと思います。
千葉
日々希くん自身、映像もやるし、いろんな活性化ができそうだよね。
折田
昨日料理人の知り合いと喋ってて、「折田くんの短歌、料理にしたら面白いんじゃない?」って言われました。
千葉
おお、料理短歌!
折田
「俺の短歌を食え!」みたいな(笑)。なんかそういう発想のもとになりやすいですよね、短歌って。
千葉
料理短歌ってさ、レシピを短歌でつぶやく手もあるし、料理に合わせてその添えものとして短歌を詠むっていうのもできるし、料理そのものを思わせるような短歌を作ることもできるし、いろんな可能性があるね。料理を作りながら歌を詠んでほしいですよ。「今何を考えている菜の花のからし和えにも気づかないほど」「君と食む三百円のあなごずしそのおいしさを恋とこそ知れ」。俵万智、みたいなね。
高村
俵さんの歌って、お料理関係のものがよく出てきますね。サラダ記念日もそうだし……。
千葉
「砂浜のランチついに手つかずの卵サンドが気になっている」とかもね。卵サンドってとこがいいよね、ちょっとくさみのある、やわらかい独特の感じでね。日々希くんは食べ物短歌あったっけ? ラーメンの歌なかったっけ。
折田
ラーメンありますね。最近はパスタの歌も。
「ラーメンにお前ら行くぞ」五階建てドン・キホーテの明るさのハタ
ナポリタン巻く一瞬に生む銀河 君は銀河を幾度も食べる

